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2011年1月アーカイブ

南部アフリカのナミビア共和国に住むオバンボ族の社会生活について、特にポスト・アパルトヘイト世代の若者のアイデンティティ形成と社会関係という観点から調査研究をしている山川早弓さん(3期生、英国マンチェスター大学)が帰国して、「文化人類学」の講義の中でその一部を紹介してくれたので報告したいと思います。


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オバンボの人々の住む南部アフリカのナミビア共和国は、アフリカ地域でも最後に独立した国で、長く植民地支配のもとに置かれていました。また、キリスト教の浸透も合わせて、新しい慣習の誕生や、慣習の「伝統化」など、実践/概念の両面で社会生活に大きな変化がもたらされました。
例えば、オバンボの人々の女性通過儀礼は、キリスト教宣教師団に禁止された一方で、植民地政府からは統治上の巧みな策略によりオバンボの「伝統」という付加価値を与えられました。
キリスト教化が進みにつれ、女性の通過儀礼の替わりに教会での結婚式が一般的な慣習として行われるようになりましたが、通過儀礼の一環であった何日間にも及ぶお祝いの部分はそのまま継続されました。教会での式と以前から続く祝宴全てを併せた新しい通過儀礼形態ができあがっていき、現在では「伝統」の一つだと位置付けられています。また、これらの変化により、男女が同じ儀礼を通して成人という社会的立場を与えられるようになったことも注目すべき点です。若者たちは、こうした新たな「伝統」とその継続的な変化への関与を通じて、アイデンティティの再確認/再構築を行っているのです。

考えてみると、日本社会の成人式にしても結婚式にしても、少なくとも、明治以降大きく変わり続けてきたことは明らかです。たとえば、成人式は最近では行政などの地域が主催しているわけですが、元々は、家や一族によって担われていたものでした。1 月15日(2000年より1月の第一月曜日)が成人式とされるようになったのは、太平洋戦争後のことです。むしろ、新しく創造された伝統であるのです。
また、結婚式にしても、少なくとも、明治以前の人々の結婚式は、人前婚(宴をはって、近所の人を招いて、固めの杯をかわすもの)であって、神の前で結婚を誓うという形式はありませんでした。明治以降になってキリスト教の禁教がとかれて、キリスト教の諸儀礼が持ち込まれ、そのひとつであった神前婚の形式が、神社によって模倣されてうまれたことによっています。また、最近のホテル等の結婚式場でチャペルを模した式場でキリスト教式の式典を催すという形式もまた、新たに創りだされた伝統といわねばならないでしょう。

このように、私たちの日常生活の中で「むかしから」行われていると思われがちな事柄もじつは、新たに創りだされたものであることが多いことは、知っておいていいでしょう。くわえて、このように「伝統」を変えてきたことを望ましくないと考えるのではなく、むしろ、新たな伝統を創造しつつ文化を維持継承していくことこそが、私たちのアイデンティティ形成にとって大きな意味を持っているということ、このことは、覚えておいて良いと思います。

山川早弓さん、どうもありがとうございました。
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